サクラマス

【分類 サケ科タイヘイヨウサケ属】
サクラマス(桜鱒、 O. masou )は、サケ目サケ科に属する魚。ヤマメ、アマゴは、それぞれサクラマス、サツキマスの河川残留型(陸封型)に対する呼称である。太平洋北西部を中心に分布するが、北から順に、オホーツク海沿岸から朝鮮半島・北日本まで分布する。いくつかの亜種が知られ琵琶湖のビワマス、南日本・西日本のサツキマス、台湾のタイワンマスがいる。名前の由来については、桜の花の咲く頃に漁獲されるからや産卵期の婚姻色と諸説有ある。

サクラマスの形態および生態

基本的には、海に下って回遊し30-70 cmに成長、産卵時に川を遡上する降海型の魚であるが、一生を淡水で過ごす河川残留型(陸封型)もいる。4月から6月頃に遡上し9月から10月頃産卵をする。他のサケ科魚類と同様冷水域に生息するため、寒冷な北海道や東北などの緯度高い地域では降海型が多いが、中部以南の緯度の低い地域では標高の高い冷水域に陸封される傾向が強くなる。降海後1年で成熟し生まれた川に帰る。海洋での回遊範囲や移動経路は十分に解明されていないが、表面水温8℃~13℃の適水温域を沿岸寄りを群れでオホーツク海付近まで回遊し越夏していると考えられる。千島列島の東側の北部太平洋での捕獲例はほとんどない。
一般に降海型は大きく成長するが、河川残留型(陸封型)は比較的小型のままである。降海型は幼魚期の1~2年を河川で過ごし、この頃の体側面には大型で小判形をした暗青色の斑紋(パーマーク)が数個以上並ぶ。降海の時期は3月から5月で10cmから15cm程度に成長した頃で、海に下る前になるとパーマークは消え体色が銀色になり、「スモルト」「銀化(ぎんけ)」と呼ばれる。以降、成魚となるまで体色は銀色のままだが、繁殖期になると桃色(桜色)がかった婚姻色が現れる。一方、河川残留型(陸封型)は幼魚期のパーマークが成熟しても残る。湖やダム湖などで通常の河川残留型(陸封型)よりも大きく成長する個体もあり、成長に伴ってパーマークがなくなり降海型と同様の外見になることがあり、「銀化ヤマメ」などと呼ばれる。これとは別に、河川残留型(陸封型)の中にパーマークがない無斑型の個体が混ざる地域があり、突然変異型と考えられている。カムチャッカなどの高緯度の寒冷地域では、低水温のため成長が遅い事から河川での生活期間は長く、スモルト化するまで3年を必要とする場合がある。

サクラマスの食性

河川遡上後も餌を食べ河川では、河畔林からの落下昆虫や流下する水生昆虫を主な餌とするが、底性生物やプランクトンも餌としている。海洋では、顕著な魚食性を示しイカナゴやイワシなどの小魚やプランクトンを捕食しているが、種苗放流されたシロザケの稚魚は重要な餌となっている。 放流魚に於いてスモルト期の大きさの差は、海洋生活開始後200日程度で解消し漁獲サイズには影響しないが、回帰率には影響を与えており大型個体ほど回帰率が高くなる。河川遡上時期に母川から遠く離れている場合、どの様な行動をとるのかは解明されていない。

サクラマスの産卵

日本での産卵時期は9月から10月頃で、産卵床は湧水性の河床ではなく水通しの良い砂礫質の河床に形成され粘着性の無い卵を生む。降海型個体は産卵活動を行うと死亡するが、河川残留型個体は死亡せず多回産卵魚となり翌年2回目の産卵を行い寿命が尽きる。

漁業

遡上する河川の河口付近で行われる定置網漁や遡上中の河川で捕獲される。沿岸寄りを回遊する性質が強いとされ、実際に北海道の定置網漁では富山、新潟、岩手などの地域で降海した個体も捕獲されていることが、標識放流された稚魚の捕獲データから確認されている。この事が富山や福井などでの回帰率を低くしている一因となっている可能性が有る。なお、富山名産の「鱒寿司」に使われているのもサクラマス(近年は鱒寿司の需要の増加とサクラマスの漁獲減少に伴い、別種の鱒が使われることが多い)である。河川遡上後も餌を食べることから、体脂肪の低下が少なく食味の低下が少ないのでシロザケの遡上個体より高値で流通していた。

養殖と放流

ヤマメとしての食用、渓流釣り(遊漁用)種苗魚、降海後の捕獲を目的とした養殖と放流が行われている。
河川残留型(陸封型)のヤマメやアマゴは渓流釣りの対象魚として人気が高く、各地で放流事業が盛んである。しかし、放流される個体は放流場所と異なる水系由来のものであることが多く、アマゴの分布域にヤマメが放流されるなどの例もある。このことは、放流場所の個体群が持っていた遺伝的特徴を失わせてしまう遺伝子汚染の問題を引き起こしている。近年、富山県神通川ではサツキマス(アマゴ)との混血による魚体の小型化が報告されている。

遊漁(釣り)

釣りが行えるのは、福井県九頭竜川、秋田県米代川や山形県赤川のほか、富山県・新潟県・岩手県・宮城県などの漁業権の設定されている河川である。北海道では内水面は禁漁であるが、海で釣る「海サクラ」を狙う釣り人も近年では増えている。